令和2年7月のパブリックコメント投稿
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令和元年11月のパブリックコメント投稿(抜粋)

令和元年10月30日,総務省から『電波有効利用成長戦略懇談会 令和元年度フォローアップ会合 追加提言(案)』が発表され,それに対する意見募集が行われました(参照).この追加提言は,ワイヤレス IoT 人材の育成に関する提言を含んでおり,その中でアマチュア無線を利活用する可能性についても触れられていました.その内容は,「アマチュア無線と科学教育」「アマチュア無線を通じた科学・IT人材の育成」という,近年私が取り組んでいるテーマに合致するものです.

そこで私は,同11月28日,この意見募集に対して意見提出しました.ここに,そのアマチュア無線に関する部分を抜粋し,掲載します.


3. ワイヤレス IoT 人材の育成

【意見概要】

アマチュア無線は,科学IT人材育成やSTEAM教育の観点から見て非常に有用な枠組みであり,その利活用によってワイヤレス IoT 人材育成の足掛かりとしようという原案提言は大いに歓迎できるものである.さらに踏み込んで,より効果的な制度設計となるように工夫されることを期待したい.具体的には,

  • ヤング・アダルト層への教育利用も見据え,本制度の対象年齢を制限しないこと,
  • 監督者には当面は主任無線従事者制度を応用しながら,将来的には上級資格者は自動的に監督者となれるようその資格試験内容等を改定すること
  • 将来的な発展として,学校教育における情報・理科教育での利活用を検討し,そのための教育モデル策定や,科学館・博物館でのプログラム実施を行っていくこと
を,強く望む.

【原案提言の該当箇所】

このほか、効果的に人材の育成を進めるためには、例えば、アマチュア無線の資格を持たない青少年等が有資格者の下でアマチュア無線を一時的に体験できるようにするといったことなどにより、ワイヤレス IoT 人材の裾野を広げていく取組についても進めることが適当である。

【意見】

まず,この無線技術リテラシー,科学リテラシーを持った人材育成の文脈でアマチュア無線の取り組みが提言されたことを,一人のアマチュア無線家として,またアマチュア無線を活用した人材育成に取り組む者として,大歓迎したい.

その上で,少し踏み込んで意見具申したい.

● 対象年齢および目的

本提言では「青少年等」がこの取り組みの対象とされている.もちろん青少年へのアプローチは人材育成の文脈では不可欠であるし,注目するべき対象が,ここで対象年齢を限る理由も特にないのではないか.なぜなら,ヤング・アダルト層(20~40歳程度を指す)への取り組みも,また無視することのできないテーマだからである.

アマチュア無線は,「ハードウェア」「ソフトウェア」「通信」の,現代IT技術の礎ともなっている三本柱を,すべて,自らの興味によってひとりひとりが自由度を持って実験できる枠組みである.たとえば,ハードウェア面では,無線機器や周辺機器の製作,調整を,自分で行うことができる.ソフトウェア面の代表例は SDR (Software Defined Radio)技術であり,また世界中の交信記録をウェブ上で収集して行うビッグデータ解析も行われている.さらに,古典的なアナログ通信方式だけではなく,多様なデジタル形式による文字・音声・データ通信が研究され,日々利用されている.いずれも,姿形は少し違えど,現代IT技術と基礎を同じくするものである.

これらを踏まえると,アマチュア無線という枠組みの利活用を,「ワイヤレス IoT 人材の育成」という文脈から,「科学リテラシー,IT リテラシーの養成」「21世紀にふさわしい科学・IT人材の育成」の文脈に拡張する事は,容易かつ自然であり,そう考えれば,より広い年齢層に対する制度として設計するのが適当であろうと考える.

● 監督者となるものに対する制度

資格未取得者の運用を監督するにあたって,その監督者には従来のアマチュア無線制度にはない新たな責任が伴うこととなる.

そこで当面は,従来アマチュア局は対象外とされていた「主任無線従事者制度」(以降『主任制度』)を応用することが望ましいと考える(※注).

この際,主任制度に伴う主任無線従事者講習(以降『主任講習』』としては,新規にアマチュア用のものを設定する必要がある.内容としては,この制度が主に科学・ITリテラシーの養成と人材育成の文脈にあることを鑑み,監督者ひとりひとりが教育に携わる者となるという意識を持たせるようなものでなければならない.具体的には,既存の陸上主任講習,海上主任講習,航空主任講習で行われているような内容(法規・最新の無線工学・無線設備の操作の監督)のみではなく,教育倫理(ハラスメント防止に関するものを含む),科学教育論を含み,これらをすべてあわせて計6時間とすることが望ましいだろう.

なお,今後,この主任講習の内容が第一級アマチュア無線技士の資格試験の出題内容として組み込まれ,「第一級アマチュア無線技士または主任講習を終了した第二級以下のアマチュア無線技士の監督下では,資格未取得者も運用できる」という明快な制度と変わっていくことが,自然な流れであろう.

● 応用および発展

上述の通り,アマチュア無線は,「ハードウェア」「ソフトウェア」「通信」の三要素を包括的に,自己訓練・技術的研究として自由に実験でき,現代IT技術の基礎に触れることができる枠組みである.

そこで将来的に,アマチュア無線という枠組みが,学校教育現場での情報・理科教育のなかで利用されれば,それこそワイヤレス IoT のみならず,広範な「科学IT人材の育成」という点で絶大な効果を発揮することが期待される.

たとえば,現在行われているプログラミング教育との協調として, Arduino や Raspberry Pi といった次世代型マイクロコンピュータを用いた通信機器製作である.そこでは,ハードウェア,通信の要素が,マイクロコンピュータの動作を制御するプログラミング(ソフトウェア)の要素にプラスされており、数学やデザインといった周辺分野とのつながりも密接である.

つまり,所謂 STEAM 教育(※注)を考えたとき,アマチュア無線の枠組みを利活用することは,STEAM 各分野への興味のきっかけを醸成することに直結するのである.

こういったことを踏まえ,アマチュア無線の枠組みを利用した教育モデルを策定し,実証していくことが,今後21世紀型科学人材の養成の観点から求められており,非常に大きい効果が期待されるものである.より簡単に,博物館,科学館での取り組みとして,上記のような科学教育プログラムを実施することもできよう.

● 欧州でのアマチュア無線の取り組みから見えること

青少年・若年層を対象としたアマチュア無線を用いた人材育成について,ひとつの好例を挙げたい.

国際アマチュア無線連合(IARU)のヨーロッパ・アフリカ・中近東を管轄する第一地域委員会のなかで,Youngsters on the Air (YOTA) という取り組みが2011年より活動している(IARU 下部組織としては2014年から).10~20代のアマチュア無線家を支援し、また新しい若手をアマチュア無線界に迎え入れ、21世紀にふさわしい科学リテラシーを持った人材育成を目指す枠組みである。「若者が、若者の目線で、若者を育てる」をコンセプトにしており、企画制作やPRをはじめとしたあらゆる活動を、16歳以上25歳以下の「若手: youngsters」主導で行っている.

YOTA のアイデアはヨーロッパを越えて世界中に広がりを見せている.2017年からは日本での取り組み YOTA Japan が任意団体として活動を開始したほか,タイ,ニュージーランド,アメリカ合衆国にも各国・各地域での活動が発足している.

YOTA は,実際「アマチュア無線側」の取り組みではある.しかしここで,「若者自らが若者への取り組みを制作している」という点に注目されたい.これは二つの重要なアイデアを示唆している.

一つ目は,従来型のアマチュア無線,すなわち交信,コミュニケーションのみに重きをおいたアマチュア無線というのは,必ずしも現代の青少年・若者が持つ興味の対象と近しいものではない,ということである.すなわち,インターネットやモバイル通信技術が過剰なまでに普及した今,遠くの人と話せたり通信できたりすることは,青少年・若者らにとっては今や当たり前だからである.

実際,現代の青少年・若者アマチュア無線家の興味は,その科学技術的要素の方を向いている.今年6月,ヨーロッパYOTAに参画している若者らへのインタビューを YOTA Japan が行っているが(※注),アマチュア無線に感じる魅力を尋ねる質問に対して,彼らのほとんどが技術的,工学的な点を挙げているのは印象的である.

したがって,コミュニケーションだけに重きをおいたステレオタイプのアマチュア無線そのものを,青少年に向けた科学IT人材の教育に用いるのは,ミスマッチを引き起し兼ねない.アマチュア無線の教育利用という観点では,既存のアマチュア無線にとらわれずに,その枠組みを上手に使うことが至上命題である.

二つ目は,一つ目の事情はあるとはいえ,アマチュア無線をうまく利活用すれば,コミュニケーション能力やさらに高度なビジネス・スキルの養成も図れるということである.

まず典型的には,アマチュア無線は国際的な趣味であることから,英語力を含めた国際コミュニケーション力の養成が期待できる.具体的には,世界中のアマチュア無線愛好家との交信は古典的楽しみであるし,それのみならず「アマチュア無線」というキーワードで,世界中のアマチュア無線家とインターネット上あるいは対面で繋がることができる.これらを通して,楽しみながら国際コミュニケーション能力を自然と育まれる.

それに加えて,YOTA では,アマチュア無線を「ネタ」にした企画制作を若者自らが行っており,その PR,プレゼンテーションまでもが若者の手によっている.もちろん,若者それぞれの国籍によらず,これらは主に英語で行われている.これはもはやコミュニケーション・スキルの範疇に収まらず,高度な国際ビジネス・スキルの片鱗をも窺わせるものである.

青少年教育と科学IT人材育成の観点からすれば,これらのメリットは少し離れているかもしれないが,しかしアマチュア無線の枠組みを利用すること自体が,こうした高度なスキル養成の入口になっているということを特筆したい.


履歴

令和元年11月28日意見提出

令和元年11月30日掲載

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